軒の出は、60cm・80cm・900mmのどれかを先に選ぶのではなく、軒先から遮りたい位置までの高さと、日射を止めたい時期から決めます。
同じ南向きの窓でも、軒が高い家ほど同じ出幅でできる影は窓の上側にとどまり、8月の直射が室内へ入りやすくなります。
反対に、出幅を深くすれば夏の日射は遮りやすくなりますが、冬の光や空の見え方まで小さくする場合があるため、長さだけで優劣は決まりません。
判断に必要なのは、出幅D、軒先から影を届けたい位置までの高さH、太陽高度の三つを同じ断面図へ置くことです。
- 60cm・80cm・900mmを、同じ高さHで比較する
- 夏至だけでなく、暑さが残る8月と初秋の影も確認する
- 東西面は水平の軒だけに任せず、外付けの可動遮蔽を組み合わせる
- 軒ゼロは、日射対策と開口部まわりの防水確認を別々に行う
60cm・80cm・900mmは何が違うのか
出幅の違いを比べるときは、軒先の真下から外壁までの水平距離ではなく、外壁面から軒先までの有効な水平投影Dをそろえて読みます。
さらに、軒先から窓上端ではなく、直射を止めたい位置までの鉛直距離Hを決めなければ、同じ60cmでも結果を比較できません。
| 出幅D | Hが2,000mmの場合のD/H | 読み方 |
|---|---|---|
| 600mm | 0.30 | 高い時期の南中日射は遮りやすいが、8月や午後の確認が残る |
| 800mm | 0.40 | 同じHなら60cmより影が深く、8月の南中付近まで比較しやすい |
| 900mm | 0.45 | さらに影は深くなるが、方位・時刻・冬の明るさを含む検証が必要 |
この表の比率はHを2,000mmに固定した比較であり、60cmなら不足、900mmなら十分という一般判定ではありません。
軒先が窓より高い位置にある住宅ではHが大きくなり、同じ出幅のD/Hは小さくなるため、影が窓下部へ届きにくくなります。
庇を窓のすぐ上へ設ける計画ではHを小さくできるため、屋根の軒より短い出幅でも狙った範囲を遮れる可能性があります。

先に決めるのは長さではありません。 南面のどの窓で、何月の何時に、ガラスのどこまで直射を止めたいかを決めると、必要な出幅を図面で比較できます。
軒と庇は同じ寸法でも守る範囲が違う
軒は屋根が外壁より張り出した部分で、連続する外壁や複数の窓を広い範囲で覆います。
庇は窓や玄関など特定の開口部の上へ設け、狙った窓の近くで日射や雨を受ける部材です。
屋根の軒が外壁から600mm出ていても、軒先が窓上端より高ければHは大きくなり、窓下端まで影を届ける能力は数字の印象ほど大きくない場合があります。
窓上の庇が同じ600mmでも、遮蔽先端を窓上端へ近づけてHを小さくすれば、短い出幅で窓全体を影に入れられる条件が生まれます。
| 部位 | 主に確認する範囲 | 日射設計で見る寸法 | 雨への確認 |
|---|---|---|---|
| 屋根の軒 | 外壁と複数の開口部 | 屋根端部からガラスまでのD、各窓のH | 屋根端部、雨樋、外壁全体への雨掛かり |
| 窓上の庇 | 特定の窓 | 庇先端からガラスまでのD、窓下端までのH | 取付部、窓上端、水切り、排水経路 |
| 外付けスクリーン | 必要な季節と時間の窓 | 下ろした位置、窓との離れ、側方の隙間 | 収納部、固定部、風雨時の運用 |
日射だけを調整したい窓では庇やスクリーンが合理的でも、外壁全体への雨掛かりを減らす役割まで同じ部材へ期待することはできません。
反対に、深い軒が建物全体を覆っていても、低い西日を遮るには縦方向や可動式の部材が必要になる場合があります。
「軒か庇か」を意匠の好みだけで選ばず、守りたい対象を外壁・南窓・西窓・玄関へ分けると、部材ごとの役割が重複しません。
出幅Dと高さHから影を読む
真南を向く壁を正午に見る単純な断面では、軒の出幅Dと太陽高度αから、軒先の影が下へ落ちる距離を計算できます。
影が下へ落ちる距離は「D×tanα」で表せるため、その値がH以上なら、設定した時刻の直射は狙った位置まで遮られる計算です。
反対に、必要な出幅は「H÷tanα」で求められ、Hが大きいほど、また太陽高度が低いほど長い出幅が必要になります。
簡易断面の式
影が下へ落ちる距離=D×tanα
必要な出幅D=H÷tanα
この式は、壁面が真南を向き、太陽が壁に対して正面に近い位置にある瞬間を二次元で切り取った説明用のモデルです。
実際の影は、建物の方位のずれや午前・午後の太陽方位、窓の引っ込み、軒先の厚み、周辺の影でも変わります。
計算結果だけで寸法を確定せず、敷地の真北と建物位置を入れた日影図や三次元の日射シミュレーションで読み戻す必要があります。
真南から振れた窓は二次元の断面だけで決めない
南東や南西を向く壁では、太陽が壁の正面に来る時刻と太陽高度が変わるため、真南の正午を前提にしたD/Hの式だけでは影の横ずれを読めません。
同じ出幅でも南東面は午前、南西面は午後の直射を受けやすく、室内を使う時刻と壁の向きを重ねた判断が必要です。
軒の左右端が窓幅ぎりぎりの場合は、太陽が斜めへ移ると影も横へ逃げ、窓の端から直射が入る時間があります。
平面図で見る軒の左右への張り出しと、断面図で見るD/Hは、異なる方向の影を確かめる二つの判断材料です。
真南から振れた窓は、断面上の候補寸法を絞った後、同じ日時の平面影と窓正面の画像を設計者へ依頼します。
DとHは図面のどこを測るか
Dは、日射を遮る先端からガラス面までの水平距離としてそろえるため、軒・庇・窓の引っ込みを比べる共通基準です。
外壁面から軒先までの寸法しか図面にない場合は、ガラスが外壁より内側にある分を含めた有効寸法も設計者へ確認します。
Hの上端は軒や庇の遮蔽先端で、下端は窓台・床・窓の中央など、直射を止めたい位置です。
窓全体を影に入れたいなら窓下端まで、床への直射だけを抑えたいなら、室内の床面へ光が届く線まで確認対象を広げます。
「十分な影」を窓下端だけで判定しない
窓下端まで影が届けばガラス全体の直射を遮れますが、暮らしの不満が必ず窓全面の直射から生じるとは限りません。
床の一部へ直射が入っても差し支えない部屋と、午後にソファや作業机へ光が当たると使いにくい部屋では、必要な影の位置が異なります。
窓上側だけを影に入れる計画でも、光線が窓下側を通って室内奥の床へ伸びるなら、狙った生活場面への対策は未完了です。
反対に、窓下端まで固定の軒で覆わなくても、家具へ届く時間だけ外付けスクリーンを下ろせるなら、室内の目的を満たせる場合があります。
影図へ「窓面の影」と「室内床の直射範囲」を分けて表示すると、軒の長さで止める範囲と可動遮蔽へ任せる範囲が明確です。
十分かどうかを決める基準は軒の寸法ではなく、対象の部屋で避けたい直射を、必要な月と時刻に止められるかという結果になります。
同じ方位でも、長く過ごすリビングと短時間だけ使う通路では、直射を止める優先時間を分けて設定することが要点です。

D/H=0.3は万能の設計基準ではない
国土交通省の長期優良住宅化リフォーム推進事業のQ&Aでは、同事業で日射遮蔽措置として評価する庇について、庇の出幅Dを庇下端から窓下端までの高さHで割った値を0.3以上とする条件が示されています。
これは特定の事業における評価条件であり、すべての住宅で最適な軒の長さを定める基準ではありません。
D/Hが0.3以上でも、窓の方位や地域、遮りたい月と時刻が変われば、狙った直射が残る場合があります。
一方で、D/Hは「別の家が80cmだから」という根拠のない転用を避けるための共通指標です。
夏至だけで決めると8月の影が足りなくなる
夏至は一年で太陽が最も高くなるため、その正午だけを基準にすると、短い軒でも十分な影ができるように見えます。
国立天文台の説明式による東京の南中高度は、夏至が約78度、冬至が約32度で、季節によって太陽の高さが大きく変わります。
国立天文台の計算方法では、夏至と冬至以外の日は太陽の赤緯を使うため、地域と日付を指定した確認が必要です。
さらに、国土交通省の住宅の日射遮蔽に関する資料は、暑い時期が夏至後も続くことを示す資料です(国土交通省資料)。
東京の例として掲載されている太陽高度は、6月77度、8月68度、9月57度となります。
同じ資料が示すのは、夏の初めから初秋までの直射を検討し、南面では軒や庇と可動式の外付け遮蔽を組み合わせる考え方です。
H=2,000mmで必要な出幅を比べる
説明用にHを2,000mmへ固定し、真南の壁を正午に見る簡易断面へ各月の太陽高度を入れると、必要な出幅の差を数値で比べられます。
| 比較時期 | 太陽高度の例 | H=2,000mmへ影を届ける出幅 | 候補寸法の読み方 |
|---|---|---|---|
| 6月 | 77度 | 約460mm | 60cmでも届く計算 |
| 8月 | 68度 | 約810mm | 80cmは境界付近、900mmは届く計算 |
| 9月 | 57度 | 約1,300mm | 60cm・80cm・900mmはいずれも届かない計算 |
| 冬至 | 約32度 | 約3,200mm | 一般的な候補寸法では冬の日射が軒下を通りやすい |
数値はD=H÷tanαを十mm単位に丸めた説明用の概算であり、6月77度と冬至約32度を同一敷地の実施設計値として保証するものではありません。
この比較から分かるのは、60cmでも夏至付近の高い日射には対応できる条件がある一方、同じ窓の8月まで必ず遮れるとは限らないことです。
80cmと900mmの差も一律の優劣ではなく、Hが2,000mmなら8月の境界をまたぐ可能性があるという、限定した断面上の差にとどまります。
9月の直射まで固定の軒だけで完全に止めようとすると出幅が大きくなるため、必要な時間だけ下ろせる外付けスクリーンとの分担が現実的な選択です。
60cm・80cm・900mmで影が下がる距離
必要出幅の表を逆から読めば、各候補がつくる影の鉛直距離D×tanαを、Hが異なる住宅へ照合できます。
| 出幅D | 6月77度 | 8月68度 | 9月57度 | 冬至約32度 |
|---|---|---|---|---|
| 600mm | 約2,600mm | 約1,490mm | 約920mm | 約370mm |
| 800mm | 約3,460mm | 約1,980mm | 約1,230mm | 約500mm |
| 900mm | 約3,900mm | 約2,230mm | 約1,390mm | 約560mm |
たとえばHが1,500mmなら、8月68度の簡易断面で600mmはわずかに届かず、800mmと900mmは届く計算になります。
Hが2,500mmなら、同じ8月でも900mmを含む三候補はいずれも届かないため、軒の高さを下げる、庇を窓へ近づける、可動遮蔽を足すという別案が必要です。
冬至約32度では900mmでも影が下がる距離は約560mmにとどまり、Hが十分に大きい南窓なら低い光が軒下を通ることを数値で確かめられます。
ただし、冬の日射が窓を通った後に室内のどこまで届くかは、窓下端、床の高さ、室内の奥行きを含む別の光線で確認します。
表の値は角度を固定した三角比の結果なので、曇りや周辺建物による遮蔽、ガラスを通過した後の明るさを表すものではありません。

正午だけでなく午前と午後も確認する
正午から時刻が離れると太陽高度は下がり、太陽方位も壁の正面から横へ移るため、断面図だけでは影のずれを捉えにくくなります。
リビングを使う時間が午後中心なら、夏至の12時より、8月の14時や15時に床へ直射が入らないかを見る方が、実際の使い方に即した確認です。
設計者へ影図を依頼するときは月だけでなく、朝食時・在宅時・帰宅後など、日射を避けたい時刻も伝えると比較の目的が明確になります。
南面と東西面では遮り方を分ける
南面は、夏の高い日射と冬の低い日射の角度差を利用しやすく、水平の軒や庇を固定しても季節ごとの役割を分けられます。
東面の朝日と西面の夕日は低い角度から横へ差すため、出幅を深くしてもガラスへ届く時間が残るのが東西面です。
国土交通省の資料でも、東西面は外付けブラインドやシャッターなど、低い日射へ対応する外側の遮蔽が示されています。
東西面は動かせる外付け遮蔽を先に検討する
直射がガラスへ届く前に遮り、必要のない季節や曇天時には開けられる点が、外付けスクリーンと固定庇の違いです。
縦ルーバーや袖壁は横から来る光を受けやすいものの、見る方向と太陽方位が合わなければ眺望だけを狭めるため、平面上の影を確認します。
植栽は季節変化を利用できる一方、成長前の空白、剪定、落葉後の影まで含め、建築部材と同じ確実性で扱わない整理が必要です。

窓を小さくすれば日射の入口は減りますが、採光、眺望、通風、家具配置との交換条件が生じます。
注文住宅の窓で起きやすい後悔も合わせて確認し、軒だけで解決する問題と、窓の位置や大きさから見直す問題を分けてください。
軒の出900mmを固定の正解にしない
900mmの軒は、同じ高さHなら60cmや80cmより深い影をつくれるため、南面の大きな窓を外側から守る有力な候補です。
ただし、Hが2,000mmならD/Hは0.45ですが、Hが3,000mmなら0.30となり、同じ900mmでも断面上の働きは変わります。
「900mm」という単独の数字には、軒の取付高さ・窓位置・方位・地域・時刻が含まれていないため、黄金比や標準解としては使えません。
軒は後から簡単に延ばせる部材ではない
屋根と連続する軒を完成後に延長する案は、既存の屋根へ板を付け足すだけでは済まず、支持方法と屋根端部の防水を再検討する工事です。
張り出しには自重だけでなく風や地域によっては積雪も作用するため、後付けの可否を外観写真だけで判断できません。
窓上の庇や外付けスクリーンは後付け候補になりますが、外壁への固定部、下地、既存防水層との取り合いを施工者が確認する必要があります。
新築では、屋根の軒を配置・窓・構造と一緒に決め、時間ごとの調整は可動遮蔽へ分けるほうが変更範囲を整理しやすくなります。
将来の追加を前提にするなら、庇やスクリーンの取付下地と収納位置を図面へ残し、完成後に躯体位置を探す状態を避けることが要点です。
900mmを採用する前に比べる四つの断面
- 夏至の正午:窓を過剰に覆っていないかではなく、高い日射を確実に止められるかを見る。
- 8月の午後:暑さが残る時期に、直射がガラスや床のどこまで達するかを見る。
- 冬至の正午:欲しい日射が軒下を通り、室内のどの位置まで届くかを見る。
- 曇天時の室内:軒による空の見え方と、窓の奥行きが室内の明るさへ与える影響を見る。
深い軒は外壁や開口部へ直接当たる雨を減らす方向に働きますが、風を伴う雨を完全に防ぐ屋根にはなりません。
張り出しが大きくなるほど、構造・風・積雪・雨樋・敷地との関係も個別検討が必要であり、日射だけで出幅を確定しないことが重要です。
候補が800mmと900mmで迷うなら、100mmの差を好みで決める前に、同じ日時の影図を並べ、室内へ入る直射の差が生活上意味を持つかを確認します。
冬の光と空の見え方も同じ窓で比べる
夏の直射を止める性能と同じくらい、冬に欲しい光が軒下を通るか、曇天時に窓から見える空が残るかも重要です。
深い軒と窓の引っ込みが重なると、直射を遮るだけでなく、室内から見える空の範囲が狭くなる場合があります。
冬至の光線が窓へ届く計算でも、南側の隣家や塀が先に日射を遮る敷地では、軒を浅くした分がそのまま日射取得になるとは限りません。
反対に、眺望や視線を抑えたい窓では、深い軒による陰影と窓の奥行きが落ち着いた見え方に役立ちます。
800mmと900mmを比べるときは、夏の床への直射、冬の光線、室内から見える空を同じ視点で並べた画像が比較資料です。
軒ゼロは日射と防水を分けて確認する
軒ゼロや浅い軒は狭い敷地で建物形状を整理しやすい一方、外壁と開口部が日射や雨を直接受ける時間の長さが交換条件です。
そのため、「軒がないから危険」と一括りにせず、日射を何で遮るかと、雨水をどの納まりで外へ戻すかを別の確認項目にします。

既存住宅の事故傾向は設計の確認材料として使う
住宅保証支援機構の住宅トラブル事例研究は、同機構が扱った既存の保証住宅を分析し、軒の出が100mm未満の群で屋根・外壁・開口部の事故リスクが高い傾向を報告しています(研究資料)。
外部開口部では200mmから300mmの群にも高い傾向が見られ、300mm以上が望ましいというのが同資料の考察です。
これは対象となった保証住宅群の事故データから得られた傾向であり、300mmあれば漏水を防げるという保証や、すべての構法へ適用する最低寸法ではありません。
軒の長さだけで結論を出さず、雨水が集中する窓上端、外壁の継ぎ目、屋根端部の納まりを設計図と施工要領で確認するための注意信号として使います。
軒ゼロで設計者へ確認する項目
- 屋根端部から外壁へ水を回さないための水切りと雨樋の位置
- 窓上端、窓台、外壁貫通部で水を外へ排出する経路
- 外壁材の継ぎ目とシーリングを点検・補修できる位置
- 南面と東西面で採用する外付け遮蔽の種類と取付下地
- 完成後に点検する部位、時期、記録の残し方
軒が浅い場合、後付けする外付け遮蔽の取付下地や電源が計画されているかも確認項目です。
日射対策を将来工事へ回す場合でも、スクリーンの収納位置、固定金物、操作方法まで新築時の図面へ残しておくと判断を先送りしすぎずに済みます。
軒の出で起きやすい四つの判断違い
他の住宅の60cmや900mmをそのまま移す
完成事例の出幅だけを見ても、軒先の高さH・建物の方位・窓の引っ込み・撮影した季節が分からなければ、同じ影は再現できません。
参考事例を使う場合は、寸法そのものではなく、軒先と窓の位置関係、影を確認した日時、外付け遮蔽の有無まで設計者へ伝えます。
候補寸法を自分の断面へ移した後でD/Hを計算することが、見た目の似た住宅にある日射条件の違いを見つける方法です。
夏至の正午に窓が陰になるだけで決める
夏至の太陽は高いため、候補寸法の差が影へ表れにくく、どの案でも窓が陰になることがあります。
差が出やすいのは、太陽高度が下がる8月や9月、太陽方位が壁の正面から外れる午前と午後です。
暑さへの不満が出そうな時間を先に選び、その時刻の床面まで見ることで、夏至だけでは見えなかった直射の入口を捉えられます。
図面に書かれた出幅をそのまま有効寸法とみなす
屋根伏図や断面図の「軒の出」は、外壁芯・仕上げ面・構造体など、図面によって測定の起点が異なる寸法です。
日射計算で必要なのは遮蔽先端からガラス面までの水平距離なので、雨樋を出幅へ含めるか、軒先の厚みのどこを影の起点にするかも統一します。
数十mmの差だけで設計全体の良否は決まりませんが、800mmと900mmを精密に比較するなら、測定起点のずれを残したまま結論を出せません。
固定の軒だけですべての季節と方位を解決する
初秋の低い直射まで固定庇だけで完全に止めようとすると、冬や曇天時に欲しい空の明るさまで小さくする可能性があります。
東西面の低い日射へ軒の出だけで対抗すると、横から光が入る一方で構造や外観の負担だけが増える可能性も検討点です。
固定の軒は南面の季節差、可動遮蔽は暑い時間だけの調整、縦ルーバーは横からの光というように、太陽の動きに合わせて役割を分担します。
軒を深くする案が有効でも、それだけが解決策とは限りません。窓上へ庇を近づけてHを小さくする案、必要な時間だけ外付けスクリーンを下ろす案を同じ影図へ並べると、過大な出幅を避けられます。
影図を依頼するときの六つの手順
軒の出を比べる資料は立面図の寸法だけでは足りず、敷地の方位と暮らしの時刻を含む影図が判断の基盤です。
- 窓を特定する:南面リビング、西面ダイニングなど、日射が気になる窓を一つずつ挙げる。
- 遮りたい位置を決める:ガラス下端、窓台、室内床など、Hの下端を図面上で指定する。
- 候補寸法を並べる:60cm・80cm・900mmを同じ断面へ重ね、D/Hも併記する。
- 日付と時刻を入れる:夏至、8月、9月、冬至に加え、実際に部屋を使う午前・午後を選ぶ。
- 方位を反映する:真南の簡易断面だけでなく、敷地の真北と建物の振れを入れた平面上の影も見る。
- 代替手段を比較する:固定庇を深くする案と、外付けスクリーンや縦ルーバーを組み合わせる案を並べる。
提出された影図では、影の線が窓へ掛かるかだけでなく、室内の床へ直射がどこまで伸びるか、冬に欲しい光が残るかを読みます。
シミュレーションの色分けが分かりにくい場合は、候補ごとに同じ視点、同じ日時の画像を並べてもらうと、寸法差を判断しやすくなります。
比較資料に残したい五つの表示
- 敷地の真北、建物の向き、対象窓の位置が分かる平面図
- 出幅Dと高さHの起点・終点を寸法で示した断面図
- 夏至、8月、9月、冬至について、日付と時刻を併記した影
- 窓面だけでなく、室内床へ直射が届く範囲を示した光線
- 固定庇と可動遮蔽を切り替えたときの同条件の比較画像
日時の表示がない影図は、見栄えを確認できても、暑い時期の判断資料として後から読み戻せません。
DとHの起点が記録されていない場合も、設計変更で軒高や窓位置が変わった際に、以前の判定をそのまま使えなくなります。
採用案だけでなく不採用案の影図も、軒を浅くした理由や外付け遮蔽を追加した理由が分かる設計記録です。
最終図面で軒高や窓位置が変わった場合は、初期案の判定を引き継がず、確定寸法で同じ日時の影を再計算します。
◆Research Desk の確認メモ
「軒の出を何cmにしますか」という問いだけでは、判断材料が不足しませんか。
「8月の15時に南面リビングの床へ直射を入れたくないので、60cm・80cm・900mmの影を同じ図で見たい」と依頼すると、比較条件がそろいます。
軒の出を決めるときの要点
- 寸法より先にD・H・時期を決める:60cm・80cm・900mmは、同じ高さHと同じ日時で比べて初めて差が読めます。
- 夏至の正午だけで終えない:暑さが残る8月、初秋、実際に部屋を使う午後、冬至の光まで同じ窓で確認します。
- 方位と役割を分ける:南面は水平の軒、東西面は外付けの可動遮蔽を軸にし、軒ゼロでは防水の納まりを別に確認します。
軒の出と庇のよくある質問
軒の出は60cmあれば十分ですか?
60cmで足りるかは、軒先から遮りたい位置までの高さH・窓の方位・地域・月・時刻で変わります。
Hが2,000mmで真南の正午を単純計算すると、6月の高い日射には届く一方、8月の太陽高度68度では必要出幅が約810mmとなるため、60cmだけで十分とは判定できません。
軒の出900mmなら夏の日射を遮れますか?
Hが2,000mm、真南、正午という限定条件では、900mmは太陽高度68度の影を狙った位置まで届けられる計算です。
軒が高い住宅、真南から振れた壁、午前や午後、東西面では結果が変わるため、900mmを固定の正解にせず日影図で確認します。
D/H=0.3を満たせば問題ありませんか?
D/H=0.3は候補を比べるものさしにはなりますが、すべての住宅に共通する最適値ではありません。
国土交通省のQ&Aにある0.3は特定のリフォーム推進事業で日射遮蔽措置を評価する条件なので、個別の設計では方位、日付、時刻を加えて検証します。
西日の対策も軒を深くすればよいですか?
西日は低い角度から軒下へ入り、水平の出幅だけを深くしても窓へ届く時間が残るのが西面です。
外付けスクリーン、外付けブラインド、縦ルーバーなど、横からの光を窓の外で遮る方法を平面上の影と一緒に比較します。
軒ゼロ住宅は選ばないほうがよいですか?
軒ゼロという形だけで可否は決められませんが、窓の日射遮蔽と、屋根端部・外壁・開口部の排水経路を軒のある住宅より明確に確認する必要があります。
外付け遮蔽の取付下地、雨水を外へ戻す納まり、完成後の点検方法まで図面と仕様で確かめてから比較してください。
直射を止めた後は、室内へ届く光の質を確認します。 軒で日差しを遮る設計と、日中の明るさを照明だけに頼らない設計は別の判断です。自然光を暮らしへ配る考え方は、自然光と電気の境界を考える記事で掘り下げています。
