ポール・ヘニングセン|光源を見せずに、光を残す

ORIGINのアイキャッチ。ポール・ヘニングセンの線画肖像と、光源を見せずに光を残すというテーマのタイポグラフィを配したデザイン

PH5の重なったシェードを見て、なぜこの形が何十年も残っているのかと感じることがあります。

答えは、名作らしい輪郭そのものにあるわけではありません。

ポール・ヘニングセンは、食卓を照らす光と、座る人の目に入る光を、同じ問題として扱いました。

ペンダントを一灯選んでダイニングを整えようとすると、器具の形だけが先に立つ場面もあります。

彼の仕事を手がかりにすると、照明を選ぶ前に見るべき関係が変わる。

  • ポール・ヘニングセンを名作照明の作者だけで捉えない理由
  • 三層シェードが光源と視線の間に置いた構造
  • PH5が変わる電球にどう応答したか
  • ダイニングで光の役割を分けて考える順番
目次

名作の形より、光との関係を見る

ポール・ヘニングセンは1894年に生まれ、Louis Poulsenでは作家、デザイナー、建築家として紹介されています。

同社との協働は1924年に始まりました。

照明だけの人として彼を読むと、PH5の輪郭を生み出した造形家という像で話が止まります。

実際には、光が人の生活へどう入り、目の前の行為をどう妨げるかまでを考えていた人物でした。

照明を、器具だけの問題にしなかった

ダイニングで必要なのは、テーブルが見えることだけではありません。

皿の輪郭、向かいの人の表情、席を立った後の通路、背後の壁の明るさも、その場の感じ方に関わります。

光を増やせば落ち着くとは限りません。

裸の発光部が正面や斜め上に入り続けると、食事や会話に向けた視線はそこで止まります。

明るくするための器具が、見る行為を邪魔する。その矛盾からヘニングセンの照明は始まっています。

見上げる場面を先に置く

器具を下から眺めるために照明を選ぶわけではありません。

食事の途中に相手を見る、飲み物を取る、席を立つ。日常の視線は、天板だけに固定されません。

その動きの途中で発光部がどの方向に現れるかを想像すると、配光の説明が自分の部屋の問題へ変わります。

まぶしさを感じる位置を一つでも特定できれば、必要なのは光量を増やすことではなく、光の道筋を変えることかもしれません。

光源と視線の間に、何を置くか

照明を選ぶ場面では、白いシェードが壁に合うか、金属の色がテーブルに合うかを見がちです。

その判断も欠かせません。

ただ、ヘニングセンの仕事を読むと、外形より前に確認したいことがあります。

座った場所から顔を上げたとき、光源はどこに現れるのか。

その問いを器具の内部へ持ち込んだことが、後のPHシリーズの形を決めました。

ダークなダイニングテーブルの上に正確な三層シェード構造で吊られたPH 5

三層シェードは、反射した光のための形だった

1925年から26年にかけて、ヘニングセンは反射式の三層シェード・システムを開発しました。

Louis Poulsenの資料では、初期の照明はパリの展覧会のために設計されたと説明されています。

重なった三枚の面は、電球を隠すためだけの傘ではありません。

遮る面と、返す面を一つにする

シェードは光源から出た光を受け、方向を変え、下方へ落としながら側方にも回します。

直接目に入る光を減らしつつ、器具だけが暗い塊にならないようにするための構成です。

光を止めることと、空間に必要な明るさを残すことは、別々の操作ではありません。

どの面で遮り、どの面で反射させるか。その連続が、あの三層の比率に表れています。

テーブルだけを照らす装置ではない

PH5を「まぶしくない照明」とだけ説明すると、働きの半分しか見えません。

テーブル面だけが浮かび、器具の周囲や背景が消えすぎれば、食卓は局所的な明るい島になります。

周囲まで同じ強さで照らせば、今度は食卓へ向かう視線の中心が薄くなります。

三層シェードは、その二つの間で、下方の光、側方の光、器具そのものを読める明るさを整える構造です。

輪郭の美しさは、光の経路を整理した結果として残っています。

斜めから見たPH 5の反射板と三層シェードの重なり

PH5は、変わる電球に応答した

PH5は1958年に設計されました。

Louis Poulsenは、白熱電球の形状や寸法が変わり続けたことで生じるまぶしさへの応答として、この器具を説明しています。

固定した一つの光源だけを前提にした形ではなかったのです。

形を保存するより、光の条件を読む

ここで印象的なのは、電球の変化を装飾の問題にしなかった点です。

発光部の位置や見え方が変われば、座る人に届く光も変わります。

PH5は、シェードの内側で光を受け直すことで、その条件へ対応しようとしました。

製品写真が美しいことと、実際の食卓で目が落ち着くことは同じではありません。

器具の下にできる明るい円だけでなく、発光部がどこに見え、壁や天板までどう光が届くかを合わせて見る必要があります。

初期の色も、光を整えるためにあった

初期のPH5には、光色を補うための赤と青のシェードが組み込まれていました。

これは色を足して器具を目立たせるためではありません。

当時の光源の条件で、光の見え方を整えるための工夫でした。

後の製品でその扱いが変わったことも、形を不変の記号として守るより、光の条件に対して何を残すかを考える仕事だったことを示します。

変化を、形だけに追わせない

同じ製品名でも、使う光源や周囲の明るさが変われば、見え方まで同じとは限りません。

歴史のある照明を選ぶときほど、写真に残った一場面をそのまま再現しようとしないほうがよい場合があります。

まずは発光部の見え方を確かめ、次に反射光が天板と壁へどう残るかを見る。

PH5の背景は、その確認を形の好みより先に置くための手がかりになります。

着座した目線の高さから食卓を照らすPH 5

ダイニングでは、一灯にすべてを任せない

PH5は消灯中にも輪郭の強い器具です。

そのため、空間の中心に置くオブジェとして選ばれることがあります。

ただ、ヘニングセンの仕事から受け取れるのは、器具を主役にする方法ではありません。

食事をする人の視線を押しのけずに、必要な場所を見せる方法です。

食卓面、器具周辺、壁と通路を分ける

食卓の中心には、食事や会話のための光が必要です。

器具の周囲には、シェードの形が黒く沈みすぎない程度の明るさがあると、光源だけが強く意識されにくくなります。

背後の壁や席を立った後の通路には、また別の役割がある。

一つのペンダントが受け持つ範囲を広げすぎると、食卓の中心だけが強くなり、周囲に必要な情報は残りません。

役割を分ければ、それぞれの光を無理に強くしなくて済みます。

ペンダントが得意な場所を決める

ペンダントは、食卓の中心へ視線を集めることに向いている。

壁面や廊下まで均一に明るくする役目を同時に負わせると、器具の近くだけが強くなりがちです。

食卓のための光をまず落ち着かせ、背景や移動のための光は別の場所から補う。

器具ごとの得意な役割を先に決めると、比較の基準も整う。

光を足す前に、不足している場所を確かめる

食卓が暗く感じたとき、最初に疑いたいのは電球の明るさだけではない。

不足しているのが天板の光か、背景の明るさかを分けます。通路で足元を読むための光が必要かも、別に確かめる。

座る位置からテーブルへ視線を送り、次に向かいの顔を見る。壁と通路まで追うと、問題の場所を分けやすい。

照明の名作を置いても、照明計画はそこで終わらない。

朝の側光を受けるダイニングで消灯したPH 5の三層シェード

器具の外側にある面まで見る

三層シェードの働きは、器具の内側で完結しません。

反射した光はテーブルへ向かい、一部は器具の側面を読める程度に外へ出る。

同じ器具でも、天板や壁、天井、床がどう光を受けるかで、感じ方は変わる。

天板は、光の終点ではない

最初に見たいのは、テーブル面だけではない。

食卓の後ろにある壁がどこまで読めるかも見る。周囲の面が暗く沈みすぎていないかも、同じ判断に含まれる。

天板へ光が届いていても、その外側が急に黒く落ちることがある。食卓の明るさだけを増やしても、解決しない。

光源の明るさを一つの数字だけで判断せず、反射する面と暗く残る面を分けて見る。

高さは、役割を変える要素になる

Louis Poulsenの公式ページでは、低いテーブル上では食事のための光として、高く吊るした場合はやわらかな全体光として使えることが示されています。

どちらか一方が正解という意味ではありません。

高さが変われば、同じ器具でも受け持つ役割が変わるということです。

低く吊るしたときは、食卓の人と器具の距離が近くなります。

高く吊るせば、器具は視野の上へ退き、光の広がり方も変わる。

どちらの位置が合うかは、器具の由来より、テーブルの大きさと座った人の視線で決まります。

由来を根拠に寸法を決めるのではなく、座った視線から光源がどう見えるか、テーブル面の光がどこまで広がるかを、自分の部屋で確かめる必要があります。

設計の問いを、日々の食卓へ戻す

ヘニングセンの仕事を読むことは、PH5だけを選ぶための準備ではありません。

どのペンダントを検討する場合でも、同じ問いが使えます。

光源は目に入るのか、最初に光を受ける面はどこか、その器具は食卓と周囲のどちらを受け持つのか。

製品名や定番性を見る前に、この三つを置くと、照明の比較は少し具体的になります。

器具の理由を、空間の中で説明できるか

候補を前に迷ったときは、なぜそのシェード構造が必要なのかを一文で言ってみてください。

光源を正面から見せにくいから、テーブル面へ反射光を落としたいから、壁まで同じ強さに照らさないから。

理由が視線や面の明るさへ戻っていれば、輪郭だけを借りている状態から離れられます。

ヘニングセンが残したのは、特定の形を正解にする方法ではなく、光の形に理由を与えるための考え方です。

次に見るべきこと

PH5を食卓へ置く場合の器具の役割、食卓面の明るさ、壁と通路の光の分け方は、PH5をダイニング照明の役割から考える記事で整理しています。ここで得た視線の考え方を、実際の配置判断へつなげられます。

modernovaは何を採用し、何を採用しないか

採用するもの

私はヘニングセン氏の仕事を、器具の輪郭ではなく、光源を隠して面で反射させ、人へ届けるための設計だと読みました。modernovaが採用するのは、器具の外側にある人、食卓、壁、通路まで一つの光の経路として考えることです。

採用しないもの

採用しないのは、PH5という名作を置けば食卓の光が完成すると考えることです。一灯に、食卓、壁、通路のすべてを任せることもしません。

PH5の形は、光源を露出させず、反射させ、下方と側方へ分けるための構造です。

そこには、食卓を明るくしながら、器具が人の注意を奪いすぎない距離をつくろうとした考えが残ります。

照明を選ぶときは、器具の名前から始めなくて構いません。

昼に自然光が入る時間と、夜に食卓を囲む時間では、同じシェードでも周囲との関係が変わります。

候補を決める前に、何時に誰が座り、どの面を見せたいかを書き出すと、光を足す場所と残す暗さを混同しにくくなります。

誰がどこを見るかを定め、食卓に残したい明るさと、背景に残したい情報を分けてみてください。

光源と目の間に必要な構造が見えてきます。

PH5は、その順番を形に定着させた器具です。

たとえば、食卓面が十分に見えているのに部屋全体が暗く感じるなら、問題はペンダントの真下ではないかもしれません。

壁へ届く光が少ないのか、通路に移動のための明るさがないのか、器具の近くで光源だけが強く見えているのか。感じた不足を、場所ごとに言葉へ分けます。

反対に、明るすぎると感じる場合も、器具そのものを否定する前に、座る位置と視線の高さを確かめたいところです。

光が強いのではなく、発光部が見える方向に椅子や器具の位置が重なっていることもあります。

照明を選ぶとは、製品の性能だけでなく、その光を受ける人と面の関係を決めることです。

参考資料:Louis Poulsen「PH 125」、Louis Poulsen「PH 5」、Louis Poulsen「PH 5-4½ & PH 6½-6」

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