広い家を望むこと自体は、間違いではありません。家族が集まる場所も、物をしまう場所も、一人で静かに過ごす場所も、十分に確保したい。ただし「十分」を床面積だけで判断すると、実際にどこで何をするのかという確認が後回しになります。
部屋数と面積は比較しやすく、資産としても説明しやすい指標です。一方、朝に家族が顔を合わせやすいか、窓辺に座って読書できるか、音から少し離れられるかは、数字だけでは判断できません。こうした使い方を確認しなければ、広さの確保だけが目的になります。
建築家Sarah Susankaが『The Not So Big House』で問い直したのは、単純な大小ではありません。家の大きさを決める前に、どの行動と場所を優先するかを決めるという判断順序です。
広い家が答えに見えるのは、測りやすいから
住宅の案内には、面積、寝室数、収納量、天井高が並びます。どれも必要な情報です。ただし、その一覧からは、一日のどこで長く過ごすのか、来客時に人がどこへ集まるのか、家族がどの程度離れたいのかまでは見えてきません。
Susankaは、来客用の居間や独立した食堂がほとんど使われず、家族が小さな台所や普段使いの居間に集まる家庭を観察しました。住宅の慣習に合わせて用意した部屋と、実際に毎日使う場所が一致していなかったのです。問題は家全体の大きさではありません。使わない部屋に面積を費やし、毎日使う場所を十分に計画していないことでした。
図面上で広い居間を確保しても、実際に使いやすいとは限りません。会話しやすい距離、音の響き方、家具を置いた後に落ち着いて座れる場所は、床面積だけでは判断できないからです。
本書が描く大型住宅の失敗は、ぜいたくへの道徳的な批判ではありません。施主が「家族が普段過ごす居間を広くしたい」と希望すると、建築会社は床面積の大きな部屋を含むプランを提示しました。しかし施主が求めていたのは、以前の家より少し動きやすく、子どもが室内で遊べる場所です。要望を具体化しないまま、「広々」という言葉を大きな床面積へ置き換えた事例でした。

Sarah Susankaが変えたのは、サイズではなく判断順序
Sarah Susankaは、住宅を中心に活動してきた建築家であり著者です。公式サイトも彼女をArchitect & Authorと紹介しています。1998年に初版が刊行された『The Not So Big House』は、2008年刊行の増補版に10年後の実例と検証が加えられました。
表紙の正確なクレジットは「Sarah Susanka with Kira Obolensky」です。謝辞では、劇作家・ライターのKira Obolenskyが執筆協力者として、Susankaの原稿を読みやすい形へ整えたと説明されています。住宅設計の経験はSusankaが語っていますが、本の文章にはObolenskyの編集協力が含まれます。
よく知られる標語は「build better, not bigger」です。これは「まず小さくする」という意味ではありません。暮らしに必要な質を決め、そのために使わない部屋を減らすという順序です。
発想の原点には、Susanka自身の住まいの経験がありました。古い家には来客用の部屋がありましたが、家族は小さな台所で多くの時間を過ごしていました。増築しても、使わない部屋はそのまま残ります。そこで彼女は、自邸のすべての部屋を日常的に使えるよう計画しました。
Susankaが自邸から来客用の独立した食堂をなくすと銀行へ説明したとき、担当者は将来の住宅評価や売却を懸念し、当初は計画に疑問を示しました。ところが、その担当者自身も長年、来客用の居間を使わず、家族は普段使いの居間で過ごしていたと認めます。定番の部屋が住宅評価では求められる一方、実際の生活では使われないという矛盾が、担当者の家庭にもあったのです。
Not So Bigは「小さい家」の別名ではない
本書は、全員に小さな家を勧めていません。面積にかかわらず、住む人の行動や好みに合わない家は使いにくく、満足にもつながりません。反対に、広い家でも日常の過ごし方に合わせて設計されていれば、Not So Bigの原則と矛盾しないのです。
Not So Bigが問うのは面積の範囲ではなく、面積と予算の優先順位です。使わない部屋に面積と予算を割くより、毎日使う場所、落ち着いて座れる場所、長く眺めるもの、生活を助ける収納を優先します。小さくする技術というより、どこに面積と予算を使うかを決める方法です。
「Not So Big Houseには何平方メートルが正解か」と尋ねても、一つの数値は得られません。増補版も、正しい面積や予算は一つではないと結論づけています。住む人数が同じでも、仕事や来客の頻度は異なります。趣味、土地、身体条件も同じではありません。必要な面積と予算は、こうした条件を確認して決めます。
毎日使う場所を先に計画する
家づくりでは、年に数回の来客、将来始めるかもしれない趣味、念のための客室が面積を増やしがちです。将来に備えた専用室が必要な家庭もあります。ただし、使用頻度の低い部屋のために毎日使う場所が狭くなったり、収納や仕上げの予算を削ったりするなら、優先順位を見直す必要があります。
Susankaが提案したのは、double duty(一つの場所を時間帯や場面によって複数用途に使う考え)です。普段の食卓は照明を切り替えれば来客時の食事場所になり、音や視線から離れて過ごす小部屋は仕事場や音楽室にもできます。必要な行為を減らすのではなく、行為ごとに専用室を増やさない方法です。
用途の名前より、使用する時間と頻度を確認します。一週間の行動を朝、昼、夜に分け、誰がどこで何をするかを書き出す。ほとんど同時に行わない二つの用途なら、一室を時間帯で使い分けられます。反対に、同時に行うと互いを邪魔する用途には、別の場所や遮音が必要です。
同じ部屋の中に、落ち着いて座れる場所をつくる
広い室内でも、家具の配置や天井の高さが一様なら、どこに座るか決めにくい場合があります。反対に、窓辺の造作ベンチや、壁と家具でゆるく囲った小さな場所なら、過ごす位置が明確です。その差は床面積ではなく、座る場所のつくり方にあります。
Susankaが重視したのは、座る・読む・食べるといった行為ごとに場所の範囲を示す設計です。天井や壁、棚でその範囲を区切る方法です。例えば、大きな居間の窓辺だけ天井を低くし、壁と造作ベンチで囲えば、読書や一人で休む場所として使えます。食事、会話、読書の場所を分ければ、床面積を増やさずに同じ部屋を複数の用途に使える設計です。
平面図では長さと幅へ目が向きますが、座ったときの落ち着きには天井の高さも影響します。一律に高い天井は開放感を生む一方、一人や二人で座る場所には広すぎる場合があります。部屋の中央は高く保ち、窓辺や周囲だけ天井を下げるのは、壁で閉じずに座る場所を区切る方法です。
通路や玄関の広さまで削ればよいわけではありません。玄関で上着を脱げない、通路ですれ違えない状態では、日常動作に支障が出ます。使わない一室を残すより、玄関や通路など毎日使う場所に必要な広さを確保する方が実用的です。

家族が同じ家で別々に過ごせる間取り
開放的な間取りは、別の場所にいる家族の様子が分かる構成です。しかし、いつも同じ音と視線を共有すると、仕事や休息を妨げる場合があります。本書は台所、食事、居間をつなぐ一方で、「away room」と呼ぶ、音や視線から離れて過ごせる小部屋も提案の一つに挙げています。
部屋数を増やすことだけが答えではありません。引戸で閉じられる小部屋、共用室の端にある奥まった席、主寝室へ続く静かな一角。共有空間と個室のあいだに段階をつくれば、一緒に過ごすか、一人になるかを同じ家の中で選べる間取りです。
扉や短い壁に、天井の高さと家具の向きを組み合わせれば、開放と個室の中間をつくれます。場所どうしの距離も調整します。会話はできても互いの画面は見えない、家族の様子は分かっても作業音は抑えられるといった状態です。家族が別々のことをしても、互いを妨げにくい間取りになります。
広さと仕上げのどちらへ予算を使うかを決める
希望をただ削っても、よい家にはなりません。Susankaは、希望の一覧(wish list)と、実際の生活に必要な条件の一覧(reality list)を分けました。大きな温室が欲しい場合も、目的が園芸なのか、一人で休む時間なのかを確認します。その目的を、別の小さな場所で満たせないか検討するためです。
図面へ部屋を足す前に、その希望で何をしたいのかを確認します。必須のもの、あればよいもの、将来の希望として残すものを分ければ、使用頻度の低い専用室を減らす理由を説明できます。
この確認は、予算が限られた人だけの作業ではありません。十分な予算があっても、面積、仕上げの質、建築費をすべて無制限にはできません。優先順位を決めなければ、使用頻度の低い部屋に予算を使い、毎日使う場所の収納や仕上げを削ることになります。

質は、高価な材料の総量では決まらない
面積を抑えて細部へ予算を使うと聞くと、豪華な素材を増やす話に見えます。しかし本書が示す質は、価格表の上位仕様と同じではありません。標準的な材料でも、接合部の納まりや見切り線を揃えれば、仕上がりに一貫性を持たせられます。照明の位置や造作収納の使いやすさも、質を決める要素です。
反対に、高価な材料を広い範囲へ使っても、毎日使う場所の使いやすさや住む人の好みに結びつかなければ、満足は保証されません。仕上げの質、床面積、建築費は、どれも無制限にはできない三つの条件です。何を優先するかを先に決める必要があります。
本書の事例には、市販の収納や一般的な仕上げを使いながら、一つの見切り線を家全体へ通した住宅もあります。材料の値段ではなく、最初に決めた材料の使い方や線の位置を家全体で一貫させた例です。細部の質は、装飾の量だけでは決まりません。
現在だけでなく、将来の用途変更も考える
子どもの成長や独立、在宅勤務の開始などにより、必要な部屋と使い方は変わります。現在の習慣に合わせて設計しても、その用途を将来まで固定する必要はありません。
将来の一時期だけを想定すると、そこへ至るまでの生活条件を確認できません。子どもが成長した後だけでなく、乳幼児期に誰がどこを移動するのかまで確かめる必要があります。
本書は、同じ場所の用途を変えられること、主階だけでも生活が成立しうること、設備や技術を後から更新しやすいことを扱いました。将来の暮らし方を正確に予測するのではなく、予想と違っても部屋の用途を変えられるようにします。現在の間取りを固定するより、後から変更できることを重視する考えです。
子どもが過ごす場所は、大人用の部屋を小さくしただけでは十分ではありません。小さく囲われた場所を好む時期も、親の近くで遊ぶ時期も、一人で過ごしたい時期もあります。収納、可動する仕切り、入口の位置を工夫すれば、成長に合わせて同じ場所の使い方を変えられます。
設備についても、将来使う機器を正確に予測することはできません。配線や設備を更新するときに壁や天井を大きく壊さずに済む構成なら、家を改修しながら使い続けられます。
「何畳必要か」の前に聞く七つのこと
Not So Bigを日本の家づくりへ持ち込むなら、面積を減らす結論から始める必要はありません。まず、次の問いで実際の行動と優先順位を確認します。
- 毎日、家族はどこで最も長く過ごすか。
- 年に数回しか使わない専用室はあるか。
- 一つの場所が別の時間に二つ目の役割を持てるか。
- 一緒にいながら、音や視線から離れられるか。
- 高価さではなく、毎日触れたい細部は何か。
- 今後、人数や身体や仕事が変わったとき用途を替えられるか。
- 面積、質、費用のうち、どれを守り、どれを調整するか。
この問いに答えた後なら、広さを減らす場合も増やす場合も、その理由を具体的に説明できます。
modernovaは何を採用し、何を採用しないか
modernovaは、床面積だけで家の価値を判断しません。
Susanka氏から採用するのは、毎日行うことを先に確認し、面積、予算、材料の優先順位を決める方法です。
私がこの考えを設計判断へ直接使ったのは、自邸の計画中でした。
住宅会社と契約する前に自分で考えていた当初案は二階建てで、一階に来客用の居間、二階に家族用のセカンドリビングを置いていました。
子どもがいる家を想定していましたが、思い描いていたのは小学生か中学生になった後の生活で、二つの居間を誰が、いつ、どの程度使うのかまでは考えきれていませんでした。
設計を続ける間に子どもが生まれ、0歳児と暮らす一日を具体的に考えられるようになりました。
当初案では、キッチンを一階、浴室と寝室を二階に置いていました。
食事から入浴、就寝へ移るたびに、親は乳児を連れて階段を使うことになります。
洗濯物を運びながら子どもの様子も確認するには、さらに上下移動が増えます。
私は階段が好きで、海外製の片持ち階段を輸入することまで検討していましたが、居住空間を増やすより、毎日の上下移動をなくすことを優先しました。
設計途中で『The Not So Big House』を読み、使う場面を説明できない二階の居間を残すより、生活を一つの階で完結させる方が私たちには必要だと判断し、二階建ての案を平屋へ変更しました。
自邸で守ったのは、延べ床面積や階段の意匠ではなく、乳児を含む家族が一つの階で生活できるという条件です。
セカンドリビングは、家族が別々に過ごすなど使う目的が明確なら、面積を贅沢に使う価値のある空間です。
私の当初案は「来客用」と「家族用」という部屋名だけが先にあり、実際の使用頻度を確認していなかったため、そのまま建てれば使用頻度の低い場所になったと考えています。
採用しないのは、小さい家や平屋そのものを正解にする読み方です。
面積を減らした結果、家族が適切な距離を取れず、収納や将来の変更にも対応できなければ、Not So Bigの考えから外れます。

大きいか小さいか、二階建てか平屋かは、先に置く結論ではありません。
この家で誰が、どこで、何をして過ごしたいかを具体化し、その行動に必要な場所を整理した後で、家全体の広さと構成を決めます。
参考文献
- Sarah Susanka with Kira Obolensky, The Not So Big House: A Blueprint for the Way We Really Live。Expanded edition, The Taunton Press, 2008(初版1998年).
- Susanka Studios, “Not So Big House Plans.”
